王子様(犬)のネロ

ネロ家のリビングを見渡すと、いちばん心地良さそうな場所-エアコンの風が来るあたりやヒーターの前ですが、そこにはネロ王子(柴犬)のふかふかのクッションが置かれ、王子がお休みになられるときは、家臣、いえ家族は静かにして、彼の眠りを妨げないようにしているそうです。したがって、王子(しつこいようですが柴犬です)がお休みになるときは、そばでテレビを見ることはできませんし、歩くときは忍者のように歩かねばなりません。

王子がお目覚めになってキッチンにいらっしやり、ワンワンと吠えられましたら、それはお食事の催促ということで、ばあや、ではなくてお母さまは、お食事の準備を始めなければいけません。少しでも時間がかかると王子はひどくお怒りになり、足首やエプロンの裾に噛みつきます。叱られてしまった場合には、できるだけ急いでお出ししなくてはなりません。

王子は、あるお時間になると家じゅうのお部屋にお出ましになり、「お印」を残していかれるそうです。お印をいただいたらありがたく思わなければなりません。決してぞうきんでふいたり、シュシュッと消臭剤などをかけたりしてはなりません。お印のニオイが薄れてくると、王子は再度お印を残さなければならないからです。

キッチンは、獲物を管理する大事なお部屋なので、念入りにお印をなさいます。冷蔵庫の中には、たいそうなごちそうが入っているのでなおさらです。ゴミ箱にもごちそうが入っていることがあります。高さのある丸い筒状のゴミ箱は、王子が高いところにお印をするのにもってこいの形をしています。

最後は、お客さまが出入りする玄関ですが、ここにも王子はできるだけ高いところにお印を付けて、お客さまに自分の地位をアピールします。ゴルフバッグなど背の高いものがあると、王子はご機嫌です。上等な革製品にはお印がよく染み込み、なかなかニオイが取れませんから。

ばあや、ではなくてお母さまの牛革、ワニ革、ヘビ革でできた靴などもお気に入りで、小腹が空いたときや口さみしいときにカミカミしてお楽しみになるそうです。噛めば噛むほど味が出る……かどうかはわかりませんが、かなり長時間お楽しみになるのだとか。もちろん、どんなにお願いしても途中でおやめになることはありません。無理に取り上げようものなら、たいへん恐ろしいことになるそうです。

とまあ、ネロ王子はやりたい放題。こちらのご家族は、根本的に「犬」という「種」との付き合い方が間違っています。ある意味受け入れて(?)くださっているのですが、やはり人が快く思えない行動は変えていくべきです。決定権は、王子(柴犬)ではなく飼い主さんになくてはなりません。まずはそのあたりのことからじっくりと、ご家族のみなさんに話しました。

まず、ネロとご家族のみなさんの関係を作り直すために、正しい関係を築くためのベースプログラムを実施していただきました。

いちばん大変だった作業は、ご家族が「かわいそう」と思ってしまう意識を変えていただくことでした。たとえばハウスに入れて、「どんなに吠えていても出さず、静かになったら出してください」とお願いすると「閉じ込められてかわいそう」となり、「遊びを催促されても応えずにしばらく無視してください」とお願いすると「そんなに無視したらネロに嫌われないでしょうか」とおっしやる。ハウストレーニングは、「犬生」で最も大事な我慢すること、あきらめることができるようになるために必要なことなのです。